序章:笑い話で終わらない仮説
「地球の内部は空洞で、そこには別の文明や未知の生物が暮らしている」
そんな話を聞けば、多くの人は鼻で笑うだろう。
地球科学の常識からすれば、中心には超高温の核が存在し、空洞などありえない。
だが、人類の歴史を振り返れば、空洞地球説は決して単なるオカルトではなく、
科学者・探検家・軍事勢力 までもが真剣に向き合った“仮説”だった。
そして今なお、都市伝説として驚くほどの生命力を保ち続けている。
この物語の奥にある「ロマン」と「陰謀」を、改めて解き明かしていこう。
第一章:古代神話が語る“地底世界”
驚くべきことに、「地下に別世界がある」という発想は近代に突然生まれたのではない。
人類が古代から語り継いできた神話には、すでにその片鱗がある。
- ギリシャ神話の ハデス(冥界)
- 北欧神話の スヴァルトアールヴヘイム(黒き妖精の国)
- チベット伝承の シャンバラ
- 南米アンデスに伝わる パタラ
地下は死者の世界、あるいは神々の国として描かれてきた。
人々は地の底に“もうひとつの現実”があると信じ、それを畏れ、憧れた。
こうした神話的イメージが、のちに科学と結びつき「空洞地球論」という形で蘇ったのだ。
第二章:科学者が本気で描いた“空洞モデル”
近代科学の夜明けとともに、空洞地球説は“学説”として姿を現す。
17世紀の天文学者 エドモンド・ハレー(ハレー彗星の命名者)は、磁場の異常を説明するために「地球は複数の殻からなる空洞構造」と考えた。
彼のモデルでは――
- 地球は直径の異なる4つの球殻から成り立ち
- それぞれが別の大気や磁場を持ち
- 内部には“内側の太陽”が存在する可能性すらある
という大胆なものだった。
さらに18世紀になると、アメリカのジョン・クリーブス・シムズが「地球の両極には巨大な開口部があり、その奥に別世界が広がっている」と主張。
シムズは講演を繰り返し、熱心な信者まで生まれた。
当時の議会で“南極探検を送り込み、地球内部の入口を探す”計画が検討されたという記録も残っている。
科学の名を借りた空洞地球論は、すでに市民を魅了していた。
第三章:探検家たちが見た“極地の謎”
19世紀、北極や南極を探検した冒険家たちは奇妙な体験を記録している。
- 氷点下のはずの海域で、突然暖かい風が吹く
- 目にしたことのない巨大な動物の痕跡
- 極地の奥に存在する“緑の大地”
これらの証言は「地球の内部に別の世界があるのではないか」という想像を掻き立てた。
特に有名なのが、20世紀半ばのアメリカ海軍提督 リチャード・バード だ。
彼の北極飛行で記したとされる“極秘日誌”には、こう記されていたという。
「我々は見たことのない緑の大地に到達した。
そこにはマンモスに似た巨大生物が歩き、空には奇妙な飛行物体が舞っていた」
この“日誌”は後に否定されたが、陰謀論者たちは「政府が真実を隠蔽したのだ」と解釈した。
第四章:ナチスと“地底帝国”
空洞地球説をさらに不気味に彩ったのが、ナチス・ドイツの存在だ。
ヒトラー政権下では、オカルト研究やチベット探検が実際に行われ、地下世界シャンバラやアガルタを探す遠征隊が派遣されたとされる。
一部の研究者は「ナチスは南極に秘密基地を築き、空洞地球への入口を探した」と主張する。
第二次世界大戦後、アメリカが展開した ハイジャンプ作戦(1946-47)も、この伝説と結びついた。
本来は南極調査のはずが、“実はナチス残党と未知の飛行体に遭遇し、大損害を受けた”という説が広まったのである。
真偽は不明だが、「南極=入口」というイメージは、この時に確立した。
第五章:UFOと結びつく空洞地球説
20世紀後半、空洞地球説はUFO伝説と結びつき始める。
- 宇宙から来たと思われるUFOは、実は“地球内部”から出入りしているのでは?
- 目撃される高速移動体は、空洞世界の高度文明が操る船ではないか?
- 南極や北極の衛星写真には“穴”のような影があるのでは?
インターネット時代に入ると、これらの説は爆発的に拡散。
「地球内部に太陽があり、そこでも昼夜が存在する」というCG動画まで出回り、まるで科学的事実のように信じられることすらある。
第六章:地底文明アガルタ伝説
空洞地球論の中でも最もロマンチックなのが、アガルタ の存在だ。
アガルタとは、地球内部に広がる高度文明の都市国家である。
そこでは人類より進んだ技術があり、戦争や飢餓のない理想郷だとされる。
伝説では、アガルタの賢者は地上人類の進化を静かに見守っているとも言われる。
“空飛ぶ円盤”の正体は、宇宙人ではなくアガルタ人の乗り物だという解釈もある。
つまり、地球空洞説は“宇宙人伝説”とも地続きなのだ。
第七章:科学が突きつけた現実
では、科学的に地球空洞説はどうなのか?
結論から言えば、現代の地球物理学では 完全否定 されている。
- 地震波の観測により、地球内部の層構造(地殻・マントル・核)が確認されている
- 密度と重力の測定からも、空洞の余地はない
- もし空洞であれば、地球の自転や潮汐運動に大きな矛盾が生じる
つまり、物理学的には“空洞地球”は存在し得ない。
だが、これで終わらないのが都市伝説の魅力である。
科学的に否定されればされるほど、「政府や学界が真実を隠しているのでは?」という疑念を煽るのだ。
第八章:現代ネット時代の空洞論
YouTubeやSNSでは、いまも空洞地球説の動画や投稿が日々拡散している。
- 衛星写真に“極地の穴”が写っているという主張
- 南極に立ち入れない理由は“空洞入口を隠すため”だという説
- NASAや各国政府が口を揃えて否定するほど怪しい、という逆説的信念
特に若い世代の間では、科学と陰謀論の境目をあえて楽しむような“都市伝説エンタメ”として空洞説が人気を集めている。
終章:空洞は存在しない、だが――
科学が否定し、学界が笑い飛ばしても、地球空洞説は死なない。
なぜならそれは、人類の 想像力そのもの だからだ。
“地球の内部にもうひとつの世界がある”――この考えは、人類が未知を求め続ける証であり、神話の延長線上にあるロマンである。
事実である必要はない。
空洞地球説は、私たちに「まだ知らない世界があるかもしれない」という夢を見せてくれる。
そして今日もまた、誰かが南極や北極の写真を覗き込み、こう呟くのだ。
「やはり地球には、空洞があるのではないか?」
参考史料・関連書籍
- Edmond Halley, Philosophical Transactions (1692)
- John Cleves Symmes, Symmes Circular (1818)
- Richard Byrd, alleged Secret Diary (1947, 出典不明)
- David Hatcher Childress, Lost Cities and Ancient Mysteries of South America
- Walter Kafton-Minkel, Subterranean Worlds
- CIA declassified documents on polar expeditions