家畜を“血だけ残して”殺す影――南米に潜む夜の捕食者
序章:血を吸い尽くされた山羊から始まった
1995年、プエルトリコの小さな村で奇妙な事件が連続して起きた。
農家が飼っていた山羊や鶏、ウサギが、一晩のうちにことごとく死んでいたのだ。
だが、その死体にはほとんど肉の損傷がなかった。
代わりに、首元には小さな二つの穴が並んで開き、
体内の血液は完全に抜き取られていた。
「何かに吸われた」
人々はそう確信した。
その奇妙な犯人に、地元の住民たちは名を与えた。
チュパカブラ――“山羊の血を吸うもの”。
噂は瞬く間に中南米へ、そしてアメリカ本土へと広がっていく。
誰も見たことがないはずの怪物の姿は、
いつの間にか 共通のイメージ を持ち始めていた。
第1章:最初に目撃された“異形”
最初期の証言によるチュパカブラの姿は、
我々が想像する動物とは明らかに異なる。
背中に棘のような突起が連なり、
体は猿のようで、顔は爬虫類に近い。
眼は赤く光り、二足歩行で跳ねるように動く。
その姿はまるで、
地球の生態系に属していない生物のようだった。
当時の新聞記者はこう記す。
「人間でも動物でもない。
それは、こちらを“理解している目”で見返してきた。」
やがて報告は、プエルトリコだけではなく、
メキシコ、コロンビア、チリ、そしてアメリカ南部へと広がっていった。
血を抜かれた家畜は常に同じ状態だった。
傷は最小限、死体は乱れず、血液のみが失われている。
まるで 医療技術を持った捕食者 の仕事のように。
第2章:軍事基地と生物実験の噂
チュパカブラが目撃され始めた地域には、ある共通点がある。
米軍がかつて生物研究施設を置いていた場所が多いということだ。
特にプエルトリコは、
米国防総省の研究島として知られていた。
このため、一部の住民たちはこう語り始める。
「チュパカブラは、軍の遺伝子実験が逃げたものだ。」
さらに不可解な点がある。
血液の“完全抜去”は、自然界の捕食ではほぼ不可能で、
医療的吸引か、電解処理、または陰圧による抜血を連想させる。
だが、そんな技術を持つ“野生動物”が存在するだろうか?
チュパカブラは、もはや単なる怪物ではなく、
文明の影が生み出したもの に見え始めた。
第3章:形が変わった“第二世代”のチュパカブラ
2000年代に入ると、目撃証言に変化が生まれる。
今度のチュパカブラは、
背中の棘を持たず、
犬に似た姿をしていた。
細長い四肢に、伸びた口先、毛並みは薄く、
目は異常な光沢を持つ。
「ただの病気のコヨーテでは?」と主張する人も現れた。
しかし、決定的な違いがある。
どの個体も、牙や歯列が“自然のコヨーテでは有り得ない形”をしていたのだ。
さらに、噛み跡はいつも、規則的で整った二点刺し。
そして血液は、依然として 一滴残らず抜き取られていた。
捕食ではなく、方法がある。
そこには意図がある。
学習がある。
目的がある。
第4章:UFOとの奇妙な関連性
興味深いことに、チュパカブラの目撃報告と平行して、
UFOの目撃件数も同じ地域で増加している。
夜空に浮かぶ光、音もなく動く楕円体、
突然の停電、そしてその翌日、血を抜かれた家畜。
地元の漁師はこう語った。
「チュパカブラは、何かに“回収”されている。
奴らはここへ来ては、何かを測り、また去るんだ。」
もしチュパカブラが、
地球外生命体の「採取装置」だとしたら?
それは生物ではなく、
観察のための有機的ドローンなのだろうか?
第5章:チュパカブラは“いなくなっていない”
2023年。
アメリカ南部の農村で再び、
血を抜かれた家畜の群れが発見された。
傷口は小さく、遺体は整っていた。
監視カメラには、
何かが柵を「越えた」のではなく、
柵の中に突然“現れた”ような動きが映っていた。
姿ははっきりとは見えない。
だが、そこに“意志”があった。
チュパカブラは絶滅していない。
消えてもいない。
ただ、見えないところに移っただけだ。
終章:夜の沈黙に潜む観察者
チュパカブラとは何か。
野生動物か、実験生物か、あるいはもっと別の存在か。
重要なのは、
「血を吸う」という行為ではない。
血は、生命の情報そのものだ。
DNA、免疫、代謝、環境適応の記録。
それを“抜き取る”行為は、
単なる捕食ではなく、採取である。
目的は、観察か。
記録か。
改良か。
あるいは――再設計か。
そして、その観察は今も続いている。
夜の家畜小屋が静かすぎる時。
犬が理由なく吠えなくなった時。
月が異様に大きく見える夜。
それは、“影”が近くにいる合図かもしれない。

